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ニセグルメ -宝豆腐-

グルメ3・宝豆腐







宝豆腐とは何か。

それは宝の豆腐のことである。

といっても京都の幻の大豆を使った…、

とかそう言った高価さではない。

むしろ今回の登場する例では、

スーパーの端に「半額」というシールを張られていた、

熟成しすぎた安い豆腐である。

ではなぜそれを宝豆腐と呼べるのか、

それは下記を見ていただきたい――。

























あるところに、貧乏なカップルがいた。

今日の夕飯は、いつもの湯豆腐。

豆腐一丁をわけあって食べるのが彼らの日課だった――

それでも二人は幸せだった。

他に何もいらない、お金も、おいしい食べ物も。

相手がいてくれれば、それだけで良かった。























「アキ、先に食べていいよ」

孝雄は明子を先に食べるよう、うながした。

「ううん、タカが先に食べて。お仕事で疲れてるんだから」

明子は孝雄に譲ろうとしたが、今日の孝雄はちょっと変。

「い、いいから、先に食べなよ。あ、そうだ、あいつにメール送っとかなきゃ」

変ね? 明子はそわそわしている孝雄にちょっと疑問をもちながらも、

「うん、じゃあ煮えてきたし…」と、先に豆腐に箸を入れた――



















え? なに? これ?



























箸がつかんでいた物、それは指輪だった。

「ちょ、ちょっと…、タカ、何で豆腐からこんなものが…」

動揺して振り向き見た孝雄の目は、急に真剣みを帯びていた――。

「アキ、それ、俺が買ったんだ――」。

「え? え? どうしてこんな高価なもの…」

「タバコをやめて、ぽつぽつ、な。それで――」

孝雄は少し緊張しているようだった、

それを見ている明子の手はもっと緊張で震えていた。

「結婚してほしい」

















「え?」

「お前を守り続けたい。ずっと、いつまでも」

「孝雄さん……」

「つけてくれるかい? 指輪」

「うん……」























「ぴったり……」、指輪についた豆腐が少しぬるぬるしたが、

今の彼女には関係ない。

「良かった……」、孝雄は安堵の吐息をついた。





















「孝雄さん……。ありがとう……。本当に…ありがとう」、

明子の頬から、幾重もの雫がこぼれた、今夜の夕飯が、少しだけしょっぱくなった。

「うん」、孝雄が差し出した手に、明子はそっと自分の手を添えた。

その指にはもちろん輝く婚約指輪が…、

そして彼らの手は湯気のせいか、熱くほてっていた。

二人の手は、暖かい豆腐の香りに包まれた……。















――このように、宝豆腐は、一見貧相な豆腐に過ぎない。

しかしそれは、ある二人にとっては

どんな宝より大切なものを与えてくれるのだ……。

グルメとは舌だけで判断するものではない、

その食べ物が、人々にどんな幸福感を与えるかによってその価値が決まるのである。

この豆腐が、宝豆腐と呼ばれるゆえんを理解していただけたと思う。

あなたも、今夜の夕食に、ぜひ宝豆腐を。

大切なあの子への想いを込めて……。





















     ~happy end~

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