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■動画よりも1.5倍わかりにくい
夏宵-natuyoi- テキストバージョン
(意外とテキスト量、あったのね…)
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夏宵・本編パート

はじまりは、なきがお

見上げると、君。

ひなたのにおいする、てのひら

ひかれる。夏の日へ。



「それ!」「わっ!」



緑の道。風になり、走る君の背は、近く。

道先の山は遠く、青く。

水の冷たさ、川の声。

涙は乾き、空は高く。

君は優しく、楽しくて。

蝶をとるのが、うまいひと。




風に舞う、こころ。



高鳴りを、文する手は熱く、

想いは陰に、重ねて隠し、

会いたい人をやみに浮かべ

伝えぬ想いは花で編み、

心を結ぶ、草飾り

二つの腕に、ちぎりの輪

はにかむ君の、むこうには

黄昏のいろ




暮れる  ときに  想い  よせる
影の   先に   えがく  未来

君の  腕に  ひかれ  行くは    朱の道



宵の 闇を とかす 森で
君の 声に まぶた とじる

やがて  たどり  着いた  場所は    ――君。



「――――!」




おいてきた昨日の
残り香をたより、
夏宵を越えて、
さめない、明日を願う。




現在(主人公40歳前後)

「あなた、お昼の準備、できましたよー」

「橋立のお父さんから頂いたおそうめんをゆがいたの
 
 え……、あなた……、ど、どうしたの…?」



「……君を幸せにしたい
 
 ずっと一緒に、手と手むすび
 
 一生、二人で…
 
 二人で、生きていこう」



「あなた……

 ……?
 
 あなた……
 泣いてるの……?





夏宵終了画面・手紙パート

拝啓

いかがお過ごしですか? 直子です。
あなたに最後にあった、あの森の夕暮れが今も懐かしく思い出されます。
そう、もうあれから10度目の夏が巡ってきたのです。
年追うごとに月日の流れが速くなるのを感ずにはいられません。
……あなたにこうして、お便りを送ることなど、もうないと思っていました。
人生とは、些細なきっかけが人を動かし、心を変化させる、その連続なのかも
しれません。そのささやかな原因は、引き出しの奥深くに眠っていました。

実家の古い家を壊し新築する、ということで荷の整理をしていたときのこと。
千代紙の張られたきれいな箱、テープでしっかり封をされたそれを見つけたとき、
わたしははっとしてしまいました。まだ残っていたなんて、思いもしませんでした。
はじめは迷いました、その中に何が入っているか、知っていましたから。でも結局、
わたしは30年眠り続けた箱をあけました。そこには、変わらない姿のままで、沢山の、
あなたに渡すことの出来なかった、恋文が入っていました。そして、今は枯れて、
褐色になってしまった、あの日の草飾りも。

わたしは恐る恐る手紙を開き、読み、ふけり、知らずのうちに泣いていました。
わたしは、たとえ幼心にも、あの時ほどに人を愛したことはありません。
かつての自分をうらやましいとさえ思えるのです、そこには、純粋にあなたに向けられた、
淡い恋心がありました。そしてそれは、かつてわたしが持っていて、失ったものです。

過去のわたしは、結局一度も、あなたに恋文を送ることが出来ませんでした。だから、では
ありませんが、わたしはあなたに最初で最後の恋文を送りたい、そう思い書をしたためました。
あの、互いの未来を夢み、誓い合った草飾りと共に。
わたしが今願うこと、それは記憶のどこかで、あなたとつながって入れたら、ということです。
もしあなたの記憶の中で、思い出のわたしが少しでも息づいていられる場所があるなら、幸せです。
それでは。あなたの人生が、幸せに満ちていることを祈りながら。かしこ






夏宵隠しリンク ひぐらし:higurasi2-こいぶみ- パート

夏です。

窓から見える緑の景色は
柔らかな熱を帯び、
映える季節を彩ります。

あの日と変わらない、
太陽と草いきれの季節です。

それは、あまりに美しく、
温かく、まぶしい記憶。

今でも脳裏に、ありありと
浮かぶ、思い出の数々――

あのころの気持ちが
蘇ってくるようで

思わず筆をとっている
自分がいます。



……

おかしいでしょう?

40にさしかかろうとしている
大人が、恋文なんて。

でも、書かずには
いられなかったのです。
それが、季節のいたずら
であっても。

手紙を書いている時、
まさらな紙を
一文字一文字丁寧に
文字で埋めていく瞬間、

私は10歳の少女になります。

熱帯びた筆を走らせ、
胸いっぱいの秘め事を、
どこからあなたに伝えようか、
迷う時間こそいとおしいのです。

思えばわたしの幼き日は、

あなたへの言葉で埋められています。

ほとんど何も、伝えることは
出来ませんでしたが、
それでもわたしの記憶は
気持ちの溢れる言葉で
満たされているのです。

覚えていますか?

夏宵に、二人でこっそり
山にのぼった日のこと。




二人で叫んだ言葉を
あなたのぬくもりを
蛍の光を
腕の草飾りを




わたしには、今でも
ありありと、あの日の
情景を思い出せます。

なぜなら、それは、
誰でもない、
わたしたちだけの
ものだから。

誰も傷つけることのできない、
輝いていた時間だから。

わたしはそれを忘れない。
いつまでも、お互い離れ離れ
になっても。そう誓い、幼き
時間と別れを告げ、大人に
なりました。

10年前、思い出の場所で
再会したとき――

あなたは言いました、




「お互いの家族のため、
 もう、会う事も――
 
 この場所は永遠に、
 記憶の中だけに――
 
 大事にしまっておこう――」
 

わたしは素直に
うなずきました。

あなたに再会できたことが、
どれだけうれしかったか、

それさえ隠して、
ただ、うなずきました。

わたしはもう、大人だから。




――でも、もしあなたが、
やんちゃで元気な
たっくんが、

あの日叫んでくれた
言葉を言ってくれたなら、

すべてをすて、
あなたと手と手をとりあって、

また、二人で……
二人で……






好きです。
あの日からずっと
あなただけが、わたしでした。
たくさんの思い出をありがとう。

そして

さようなら――。






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| ひぐらし:higurasi 1 ひぐらし:higurasi 2(夏宵・隠しリンク後) |


〈↓作者のいらぬ注釈・読みたかねえよ、という人は読まれない方が……〉

各所ででてきている「10年前の再会」というお話は、うちのサイトの別flash、
『ひぐらし:higurasi』というお話で語られております。


時系列的で言うと

(幼少期=10歳くらい)→(10年前の再会=20〜30歳くらい)→(現在=40歳くらい)

となります。
つまり手紙を書いている直子さんも、読んでいる孝雄さんも、もう幼少期から30年近く経っている
わけですね、ずいぶんお年をめされたことで……。


個人的には孝雄さんが今の奥さんに、昔好きだった女の子と山の上で叫んだ台詞をまんま語りかけるあたりに、ぬるりとした感情のうごめきがあって、いいかなあ、と。
それにしても思い出の人から、「最初で最後の恋文」なんて言われてあんな手紙をもらえる、という人生もなかなか風流だなあ、などと思いながら、僕にはありえないなあ、と安い幼少時代を送ってきた自分史を振り返りため息をつくばかりです。


ちなみに、このひぐらしシリーズは3で完結です。
つまりもう一話、ひぐらし話は続くのです、直子さん、さよならって言ってるのに、どうするつもりなんでしょうね?
それにくそ忙しい毎日、いったいいつつくるというのやら。